2013年7月16日火曜日

今、世界中の起業家が宇宙ビジネスに挑戦するワケ





AppleMicrosoftGoogleなど、世界を代表するIT企業を輩出しているテクノロジー産業の集積地シリコンバレーで、数年前から宇宙ビジネスが注目を集めています。

インターネット決済事業のPayPal、電気自動車メーカーのテスラモーターズの創業者である起業家のイーロン・マスク氏は2002年にスペースXを設立し、民間で宇宙輸送を可能にするロケットを開発しており、既に幾度かの飛行に成功しています。(→関連エントリ)

また、EC最大手Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏は、2000年にブルー・オリジンという宇宙ビジネスの会社を設立、2009年にはNASAの商業有人宇宙輸送開発計画の候補企業に選ばれていますし、Googleの創業者サーゲイ・ブリン氏も大の宇宙好きで、2015年までに民間の無人探査機を月に送り込む国際レースのGoogle Lunar X PRIZEを主催いるほどです。このレースには日本からもWhite LabelSpace(HAKUTO)というチームが参加しています(ファイト!)。

その他にも、Microsoftの共同創業者のポール・アレン氏、米国外だと英ヴァージン・グループ会長のリチャード・ブランソン氏や元ライブドア社長の堀江貴文氏も宇宙ビジネスへの投資に積極的です。

ではなぜ、このようにここ10年の間に民間で宇宙ビジネスへの投資が活発になってきたのでしょうか。



 アポロの月面着陸から30年以上…、なぜ宇宙旅行は普及しないのか

ヴァージン・ギャラクティック社のスペースシップⅡのイメージ



19697月、人類がはじめて月に着陸してから30年以上が経つというのに、我々が宇宙を身近に感じる機会は少ないですよね。ましてや、宇宙旅行など夢のまた夢だと考えている人がほとんどなのではないでしょうか。

要するに、有人飛行が一般化していないとうことなのですが、それは一体なぜなのか。国が主導で宇宙事業を行なっているうちは、宇宙旅行が一般人の手の届くレベルに普及しないというのが起業家達の意見です。その理由を、宇宙技術発展の背景から見ていきましょう。

宇宙技術が劇的に発展したのは、ソ連と米国対立していた冷戦時です。実際に戦火を交えることのない冷戦は、自国の科学的軍事力をアピールする競争でもありました。

当初、宇宙技術で圧倒的にリードしていたのはソ連であり、1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功、続く1961年にはユーリ・ガガーリンによる人類初の宇宙飛行に成功したのです。これに舌を巻いた米国はアポロ計画を提唱し、総額250億ドルの国家予算をつぎ込むことで、人類初の月面着陸を成し遂げました。

このように、冷戦下に両国が莫大な国家予算を宇宙分野につぎ込み、競争し合うことで宇宙技術は飛躍的に向上したのです。

しかし、冷戦が終了すると彼らは膨大な予算を宇宙につぎ込む大義名分を失いました。それは、自国の国民に莫大な税金の使い道を説明できなくなるということです。

ただ、アポロ計画時の開発競争で恩恵を受けていた企業が多数存在していたため、宇宙開発を完全に打ち切ることができなかった両国は、公共事業として宇宙への投資を続けることにしました。

悲しいことに、宇宙開発が公共事業化し続けているうちは、技術が一般レベルに普及することはなのです。というのも、公共事業化すると関係者は、『より多くの予算を確保するために新しい技術を開発しよう』という方向になります。コストの削減は予算の縮小を意味するので、コスト削減を避けるようになるのです。

このような背景が、アポロ計画が終了してから30年近く経過しても、一般人が宇宙旅行を身近に感じられない理由です。

蛇足ですが、一方で予算縮小に伴い優秀な人材が一部流出したことは、スペースXをはじめ、いくつかの宇宙ベンチャーには好材料であった側面もあります。



既にお金さえ払えば誰でも宇宙に行ける時代、残る課題はコスト削減

スペースX社のファルコン9の打ち上げ写真



多くの起業家が宇宙関連のビジネスを立ち上げる理由は、彼らが子供の頃夢見た宇宙旅行が、国家主導では到底一般のレベルに普及しそうにないという事実に焦りを感じ、自らの力で実現させてやろうといった志に加え、大きなビジネスチャンスを感じているからです。

宇宙ビジネスというと、衛生の打ち上げおよび管理、宇宙空間での実験、新たなエネルギー資源の獲得、宇宙旅行など、様々な分野が考えられます。中でも宇宙旅行は、多くの起業家が注目している分野です。

一般的に、宇宙空間へ行くのは桁外れの頭脳と訓練が必要であると考えられがちですが、実はそんなことはありません。既に億単位のお金さえ払えば誰でも宇宙に行ける時代なのです。

事例としては、ジェイク・ガーン米上院議員、サウジアラビアの石油王子であるアルーサウド王子、高校教師のクリスタ・マコーリフなどが実際にスペースシャトルに搭乗しています。

また、日本人で最初に宇宙へ行った人間は、ソ連のソユーズ飛行船で宇宙ステーションへ行ったTBSの秋山豊寛記者です。彼は記者であり、宇宙飛行士になるべく特別な訓練を受けたわけではないのです。ちなみに、彼の搭乗費用は約15億円。

これは、お金さえ払えば普通の人間でも宇宙に行けることを証明しています。実際に宇宙旅行の代理店の米スペース・アドベンチャー社は、ロシアのソユーズ飛行船の座席を1020億円の間で販売していました(現在は3050億円程度)。内容は、ソユーズ飛行船でISS(宇宙ステーション)へ向かい、1週間程度滞在を楽しんでから帰還するといったもので、合計7人の富豪を宇宙へ送ったのです。

一方、ソユーズを利用した地球を回る軌道に乗る宇宙旅行とは別に、弾丸宇宙旅行があります。宇宙空間と定義づけられている高度100㎞へロケットで行き、無重力空間を数分楽しむといった簡易宇宙旅行です。価格は2000万円程度で、ヴァージン・ギャラクシーが実施した飛行には、海外の富豪数百人が予約したといいます。

このように、宇宙旅行の需要は確実に存在しているといって間違いないでしょう。起業家達はその需要の拡大にビジネスチャンスを感じ、その価格を下げることで、宇宙旅行を一般レベルまで普及させようと日々努力を重ねているのです。近い将来に、数百万円で地球の軌道に乗る宇宙旅行を実現することが彼らのゴールです。

国家主導の宇宙開発の限界、また宇宙旅行に対するビジネスチャンス、そして大きな夢。これらが、宇宙ビジネスに挑戦する理由なのではないでしょうか。残る課題がコスト削減なら民間の力でやってやろうということです。

我々が宇宙旅行に行ける日は、そう遠くないかも知れません。引き続き、宇宙ビジネスに挑戦する民間企業に期待しています!